昔みたく中古CD屋に行くことはほとんどなくなったが、ネットで中古CD漁りはよくやる。
アマ●ンとかH●Vとかブック●フとかだけど。
それぞれにメリットデメリットあるというか、Aは在庫豊富だけど、配送料という名の固定マージンのために最安でも351円、Bは在庫そこそこで、最安なら108円とかザラだけど、合わせて1500円以上でバンドル買いしないと送料が360円かかる。Hはたぶん中古在庫は最小だけど、コンビニ受け取りなら送料無料、まとめ買いによる割引施策もある。
というわけで、ぼくはちょっと聴いてみたいかなっていうCDがあると、これらのサイトを比較しつつ、あれやこれやを組み合わせて最安での入手手段を検討するのである。冗談抜きで、それで半日つぶすこともある。不毛な情熱である。数百円、場合によっては数十円の差異のためになにをやっているんだ?という気にもなるが、最適解を見出したときはやはり嬉しい。これはケチではなく頭脳戦である。値は日々変動するので、いいタイミングで安値に出会えたときも同様に嬉しい。
とくに悩ましいのが、BとかHで、あと数円で送料無料、あるいはあと一点で20%引きなのに欲しいのねえよってとき。無理してでもあと一点安いのを買ったほうが得だけど、単品でたとえばAの売価より割高なものを加えてしまうのは本末転倒。なので、もともと買うつもりはなかったけど、108円だしこれでも入れとくかみたいな感じで、欲しくなくもないが買うほどでもないかなってラインの商品を加えてしまうことになるわけである。結果、安物買いの銭失いになることも、ままある。が、予期しなかった新しい出会いになることも、ないわけではない。

というわけで、アラブストラップ。なにこれちょう良い。メインの目的だったジェイムズ・ホールデンそっちのけで聴きまくってる。

エレファント・シュー
アラブ・ストラップ
ポリドール (1999-09-01)
売り上げランキング: 431,638


これリアルタイムでは全然聴いてなかったのだけど、結構流行ってたのかな。一昔前の流行って妙に古臭いことあるけど、これに関しては全然そんなことはない。今こそ出会えてよかった、とぼくなんかは思う。
音楽を聴くのってそれ自体のなんというか聴覚的な快ってのはもちろんあるけど、それ以外に感情的な触れをもたらす効果を求めるってところがあると思うんだ。アガる音楽だったり、浸る音楽だったり。ハイ・オア・ロウ。平生ではないところへ引っ張ってくれるという意味で、どこか理想主義的でありロマン主義的であるようなところが。
でも、アラブストラップにはそのどちらもない。人によっては暗いって思うかもしれないが、ぼくなんかにとってはこれは日常と同じ高さにある音楽だ。この音楽は、歌わないし、盛り上がらない。反復するリズムマシーンとギターとごく控えめな装飾とぼそぼそ声のヴォーカルのみ。ルーリードっぽくもあるが、あれよりも自己演出がなく、もっとむき出しな感じだ。歌詞は聞き取れないが、どのみち前向きなことを言っているはずもない。ひたすら日常の倦怠が、熱くもなく冷たくもなくそのままの温度で吐き出されている。そのスタンスが革新らしからぬ革新なのだろう。エリックサティも似たことを考えていたかもしれない。聴き入る、というのじゃないが、居心地がよくてずっと鳴らしておける、少なくともぼくにとってはそんな音楽。セカンドの『フィロフォビア』の方がヒットしたみたいだけど、こちらの方が完成形だと思う。
タイトルの「エレファント・シュー」は口の動きが「 I Love you」と同じになることから、子供が使ったりする言葉らしい。声を出さずに口を動かして、訊かれたら「エレファント・シュー」っていっただけだよーとか答えるのだそうだ。常温の音楽、ではあるが、付け加えておかなければいけないのは、おおげさにさらけ出さないだけで、アラブストラップの音楽は、ぶっきらぼうの隣に含羞とささやかなロマンティシズムも寄り添っているということだろう。

「(好きだよ)」
「ん? 何て言ったの?」
「象の靴って言ったのさ」