このレコードは現時点では、レディオヘッドポップの完成形としての評価が確立していると思うが、ぼくもおおむね同意というか、もしレディオヘッドを聴いたことない人にどれか一枚すすめるとなったらこれを選ぶだろうなというアルバムである。
リリース時のインパクトも凄かった。もう十年も前のことなのだ。
ぼくはそれまでインターネット繋いでなかったし、なきゃないでなんとかなるしってとくに繋ぐ気もなかったのだけど、このアルバムが出るほんの数ヶ月ほど前に、たまったま住んでいたアパートがネットを導入してくれて、まったく偶然的にぎりぎりで間に合ったのだった。神の配剤。レディオヘッドの新作がネットリリースのみ!って情報を知ったのは2chだったと思う。かなり驚きだった。しかも繋いでみると価格を自分で決めるシステムで

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おおう懐かしい。ネットを使って音楽を実質ただで配るだと!? 衝撃でしたね。キッドAのリードシングルなしマーケティングも新しかったが、レディオヘッドは時代の突端にいるのだなあと。レコード会社や各種媒体でワンステップ置かずにリスナーと直接に繋がる試み、そういうことだった。ビートルズが世界初の衛星中継でどうたらって昔話をきくけど、これはそういう種類のことがリアルタイムで行われているってことなのだなあと。
クレカを持たなかったぼくは当然のごとく「0」を選択。いや、クレカあったらぜんぜん払うんだけどね、しかたないよね、と言い訳しつつ。いまとなってみれば、中途半端に2,3ポンド払うよりは、0ポンドでよかったと心底思う。そのほうが、このレディオヘッドの「普通ではないやりかた」に応える形だったと思うから。

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で、そのあとにこのメッセージだっけか? 「UP TO YOU」。なんて美しく切実な響きなんだろう。ビョークの it's not up to youと同じくらいに美しい。それはただの金額の決定の意味ではなかった。バンド側からしたら新しいマーケテングアプローチの一環ってとこが一番だったのかもしれないが、ぼくらはここに精神的な意味を見ずにはおれない。トムのことだからエコ的な意味もこめてそうだし、でもそれはもっと漠然と抽象的な意味で、「これからきみがなすことはすべて、きみ次第なのだよ」というレディオヘッドからメッセージだった。
192kbpsの音源を受け取ったぼくらは、すぐにそれを繰り返し聞きながら、けっきょくそれをCDRに焼いて、ホームページの画面をスクショした画像をプリントアウトしてジャケがわりにしたりして、でもそれについて誰かと語りあった記憶はないから、当時周りにはレディオヘッド好きいなかったのかな。2chに書き込んだりした記憶はあるな。「インっていうからには、それ外から見ているのではなく、ぼくらは虹の中にいるってことなんだ」みたいな意味不明なこととかを。

内容的には「ヘイルトゥザシーフ」を洗練させたって印象で、段違いに新しいとかはなかったけど、前作にくらべて非常に洗練度を増して整っていて、とくにレコナーやウィアードフィッシュあたりにはぶっとんだ。これもうレディオヘッドの到達点だろうと。ほとんど恍惚によだれをたらしながら思ったものだった。「これはぼくらのホンキードリーだ」といったのはエドだったか。前傾姿勢ではなく、今いる立ち居地から、最上の音楽を試みる。いい曲をそろえて、いい音で鳴らす。ことさら陰にも陽にもふれていない、そういうシンプルな姿勢のアルバム。
山崎洋一郎だったか「コールドプレイのイエローを聴きながら道を歩いていたら、ひざから崩れ落ちてその辺の藪にしゃがみこみたくなった」みたいなことをライナーで書いていて、ぼくはその表現がとても好きだったのだけど、同じような気分を体験したことがある。ぼくは近所のスーパーで、インレインボウズ聴きながら買い物してたのだけど、オールアイニードの終盤のコーラスあたりで、ぶっ倒れそうになった。貧血とか鬱とかじゃない、音楽が美しすぎて、その場にしゃがみこみそうになった。



いま聴いても、軽く死ねますね。

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レディオヘッド

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このアルバムはディスク2も素晴らしいし、ベイスメントライブもくそ素晴らしい。暗いとかキモいとか実験的すぎて難しいとか、レディオヘッドはもうそういうのじゃないから。ただ良いのだから。