ロンはいつもそばにいるよ。

最初に出会ったのはいつだったろうか。当然、ファーストの『ロン・セクスミス』が出たあたりからそう遅れてはいないわけだけど、いつどこで買ったとか何にも覚えていない。衝撃的な出会いというのではぜんぜんなかった。なんとなく買って、なんとなく聴いて、なんとなく気に入っていたという感じで。
全部聴かなきゃというようなハマり方をしたこともないし、新譜が出たら必ず買うというのでもない。それだのに、いつの間にか、CDは増えていて、全部、ではないが、だいたい持っている。
そのうちのどれかを、ときどきかける。たぶん、すごくシンプルな気分のときに。



ロン・セクスミスは同時期に現れたうちでも最高のソングライターのひとりなんだと思う。この曲なんかもすでにしてスタンダードの風格さえある。この曲では、クリス・マーティンと共演しているが、単純に曲書きの能力でいうなら、たとえばそのクリス・マーティンにも劣るということはないと思う。抜きん出た名曲というのはないが、アヴェレージはおそろしく高い。その高いアヴェレージが長い期間維持されている。そういうのは、ざらにある才能じゃない。

音楽的なチャレンジャーではない。ロンの作る音楽はだいたいいつも同じようなものだ。そのことは、欠点ではなく美質なのだと思う。ぼくが他の新しく刺激的な音楽に目を奪われている間にも、ロンは変わらずに同じように良い音楽を作り続けていてくれた。そういう安心感。
ロンがいてくれてよかった、と思う。
アルバムいくつかごとに、プロデューサーを入れ替えたりして、新試行をするが、それは窓を開けて空気を入れ替える作業みたいなものだ。根っこのところは変わらない。
まあでも、だいたい同じようなものだから、どれか3枚くらい持っていればいいんじゃないか、という気もしないでもない。
問題は、どの3枚を選ぶかということだけど、なんだかんだで、ファーストははずせないでしょう。


Ron SexsmithRon Sexsmith
Ron Sexsmith

Uni/Interscope 1995-05-16
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ミチェル・フルームのアレンジは、ただシンプルな曲の良さを活かすアレンジというだけでない、とりわけパーカッションのざっくりとふかい響きのために、節くれ立った木の肌目のような、野性味がかすかに付与されて、綺麗なだけでない個性をこのアルバムに与えている。曲単位でいうと、「シークレットハート」「ゼアズアリズム」「サマーブロウインタウン」など、前半に掴みのある曲が多いように思える。これはロンのレコードの弱点だけど、アルバムを通して聴かせる起伏に欠けるので、だいたい前半を聴くと分かってしまうというか、終盤に盛り返すというところに乏しいのだ。後半の曲がまずいわけではないのだけど。このレコードに関しては、中盤のレナード・コーエンのカヴァー「ハートウィズノーコンパニオン」なんかもぼくは大好きだけど。

エルヴィス・コステロがこの先20年は聴き続けられるレコード、といったこのレコードだけど、もうじき発売から20年経とうとしているのだな。あと一年、を待つまでもなく、その言葉は正しい。永遠の名盤。

しかし、いい添えておくと、ロンのソングライターとしてのマエストロっぷりを堪能するためには、このレコードだけでは足りないので、これの他に 『アザーソングズ』と『コブルストン・ランナウェイ』と『リトリーヴァー』あたりは、(4枚になっちゃうけど、)常にCD棚に揃えておきたいところだ。

さらに。申し訳なさげに、言い添えておくと、ぼくはまだ最近3作(『タイム・ビーイング』 『エグジット・ストラテジー』『ロング・プレイヤー』)を、じつはまだ聴いていないのだけど・・・。