ぼくの好きだった音楽

歌が答えであったことはなかった ただ人生のサウンドトラックってだけだった

水曜の朝、午前三時/サイモン&ガーファンクル

すべてはここからはじまった。
そんなふうにドラマティックに言ってみたくなる。
それは歌が始まるよりも先だった。
再生ボタンを押すと、スピーカーから少し古い録音特有のシーという音。それからあの有名なアルペジオが流れ始める。その最初の四音で、ぼくの(とるにたりない卑小なものではあるけれども)運命は決せられた。
ああ、これだよ、これはぼくのために作られた音楽だよ。
そう思った。そんなわけはないが、腹の底から、そんな実感があった。それから歌がはじまる。
「やあ、暗闇、ぼくの古い友達」
孤独な自分を皮肉るレトリックとしてのこの再会のあいさつも、ぼくには文字通り再会のあいさつだった。
はじめて聴いた歌に再会する。それは奇妙なことだったが、本当に起こったことだった。ぼくはこの曲を聞く前から知っていたのだ。

あとになって、母親がむかし好きだったと知った。ぼくは生まれるまえにたぶんこの曲に出会っていた。

水曜の朝、午前3時水曜の朝、午前3時
サイモン&ガーファンクル

Sony Music Direct 2003-12-17


ぼくが最初に聴いたのは、バンドパートがオーバーダブされたヴァージョンだったが、今聴くとそのアレンジは古臭くエモーショナルにすぎる。やはりこのアルバムのヴァージョンで聴かれるべき曲なんだろう。ポール・サイモンの音楽は、ぼくにとって昔好きだった音楽でありながら、未だに聴き続けることの出来る稀有な音楽だ。彼のそのキャリアを通して、このアルバムから最新作の『ソー・ビューティフル・オア・ソー・ホワット』までどれもが素晴らしい。駄作というのは一枚もないが、といって時代を画する大傑作というのもない。そんなところがかえって長く付き合っていける要因なのかもしれない。S&Gのこの最初のアルバムというのは、もちろんポール・サイモンのキャリアの記念すべき最初のアルバムであるわけだけど、残念ながら、まあいちばんたいしたことない、といってもいい。なにしろオリジナル曲が少ない。トラッドソングのカヴァーはいいとしても、節操もなくディランのカヴァーまでしている。二人のハーモニーは良好で悪くはないが、ポールの作曲の天才性は十分に伝わらないだろう。
だが大丈夫。
このアルバムには「ブリーカー・ストリート」と「サウンド・オブ・サイレンス」と「水曜の朝。午前三時」がある。「ブリーカー・ストリート」のしっとりとした抒情と、「サウンド・オブ・サイレンス」の張り詰めた内省と、「水曜の朝」の壊れそうな瑞々しさはどうだろう。
ぼくはダンテ・アリギエリに一瞥もなく神曲などという形容を弄ぶ風潮を好きではないが、これらは、しかたない、三つの「神曲」である。

CD前史

ぼくのこの文章はひとつにはCDという音楽媒体へのエピタフとなるはずなのだ。
ぼくが音楽の趣味に目覚めたのは、CDが普及し始め、国内の一般的なレコード生産が中止されたころだった。いってみればぼくの音楽趣味はCDとともにあった。そしていまCDという媒体が衰退しつつある。たんなる音源の容れものの移行にすぎないのだろうけど、戸惑いはある。いずれCDが聴けなくなるとして(まだだいぶ先のことだけど)これまで集めたこんなにたくさんのCDはどうするの?って。全部を電子媒体にコピーする情熱はどうやってもかき集められそうもない。どう考えても、ぼくはコレクション(そんなたいそうな量でもないけど)の大半を、自覚的に葬らないといけなくなるだろう。
二度とはアクセスできない自分の過去の情熱の切れ端と一緒に。
この文章はそのときのための準備でもある。
ぼくはぼくの過去になにか一言ずつでも声をかけておいてやりたいのだ。

とはいえ、短いがCD前史がある。
我が家にCD再生装置が設置されるまえの話。
まず中学の英語の授業で、担任が「ヘイ・ジュード」のテープをかけてくれた。担任はその後、ギターまで持ってきて、教室でみんなに歌わせたりした。どこの学校にもそんな中村雅俊みたいな教師のひとりやふたりはいるだろう。
その曲がいたく気に入ったぼくに(「音楽」を意識しはじめたそれが最初のことだった)、友達のO君がビートルズの曲がいろいろ入ったカセットテープをくれた。どういうわけか内容はほとんど覚えていないのだけど、たぶん青盤みたいな内容だったと思う、ぼくは兄と兼用の四畳半のちいさな勉強部屋で繰り返し繰り返しそれをきいた。実のところ、その音楽が良い、とかは思わなかった。「ヘイ・ジュード」みたいな即効性のある曲はあまり入ってなかった。なんだか全然わからなかった。 それなのに、なんだこれ? と思いながら何度も何度も聴いた。
その中で、一曲よく覚えている曲がある。



いちばん摩訶不思議な響きの曲だったからかもしれない。
中学生だったぼくは、この宇宙に溶け込む精神についての歌を聞きながらどんなことを思っていたのか? 今となってはまるで覚えていない。たぶん、何も思ってなかったんだろう。この曲を聴きながら眠り込んでしまうこともよくあった。ただ、それとは逆に、ぼくの中のなにかがゆっくりと頭をもたげ、目覚めつつあったとはいえるのかもしれない。


はじめに

音楽趣味のブログを始めようと思う。
でも最近は昔のように情熱的に追っかけて聞き漁ったりしてない。
なので、そんなに随時書くべきネタもない。
なので、回想記風に、昔好きだった音楽の紹介をメインにしてみることにする。
それなら書くことはたくさんある。
現在の興味についても少し書くかもしれない。
つくりごとも書くかもしれない。
どうなることか。
まあ、書いているうちにスタイルも決まってくるだろう。
では、はじめよう。
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