ぼくの好きだった音楽

歌が答えであったことはなかった ただ人生のサウンドトラックってだけだった

ユー・アー・ザ・ワン/ポール・サイモン

白状すると、ポール・サイモンの作品中いちばん愛着のないアルバム。

一曲目のthat's where i belongが高らかに宣言するように、ポールがワールドミュージックの旅路からホームへと帰ってきた作品だ。フォークロックに帰ってきたというのじゃなくて、ワールドミュージックのお土産をたっぷりつめこんだ、新しい里帰り。21世紀サイモンの最初の一歩。
しかし、なにか響かないんだな。ところどころにサイモンらしいフックを感じもするのだけど、どうも輪郭がぼやけている。大人しすぎる。『ソービューティフル』や『ストレンジャー』に比べると、リズムが弱いし、メロディが弱い。アコギの音が少ない。肩の力の抜けた、等身大の、とか言うと聞えはいいが、逆に言えば挑んでいないともいえる。2枚あとの『ソービューティフルソーワット』を聴けば、それが加齢の問題ではなかったことが知れる。本質的にミュージックツーリストであるサイモンにとって、「ぼくの居場所」は旅路の中にしかないのではないか? そんなふうにも思える。
出た時期も悪かった。これ2000年の11月というから、『キッドA』のおよそ二ヵ月後。はっきり覚えているわけじゃないが、ぼくとしてはいまはそれどころではない、という気分だったに違いない。レディオヘッドに完全に引きこもっていたぼくには、サイモンの声はドア越しの親戚のおじさんの声みたくぴんとこなかった。それでも発売してすぐに聴いたはずだが、一聴して「ポールも老いたな・・・」そんな印象を抱いて(「オールド」なんて歌、歌わないでくれよポール、なんて思いながら)、再び『キッドA』に舞い戻る。それはもうしかたのないことだったのだ。
それでも、ポール・サイモンのアルバムの常として、地味アルバムも聞くほどに良さが染みてくることもある。そう思って、その後も、折に触れてトレイに乗せたが、結局いまもって開眼には至っていない。ファンとしては忸怩たる思いである。最新作のセルフカバーアルバム『インザブルーライト』で何が驚いたかって、10曲中4曲もが、このアルバムから取り上げられているのだ。バランスおかしいだろ。ポール、そんなにこのアルバムに愛着持ってたのかよ・・・と。(まあ、このアルバムのプロダクションに不満が残っていたからこその選出、という可能性も僅かになくはないが。)それでまた聴き直したりして、「言われてみれば、いいとこもなくはないんだよな。でもなあ」、と今は、そんな地点のぼくである。


ユー・アー・ザ・ワン
ポール・サイモン
SMJ (2018-09-26)
売り上げランキング: 382,471

このアルバムを買ったときには、けっこう立派な冊子が特典としてついていた。「all about Paul Simon」というやつだ。年表とかあって、「へー学生時代はキャロルキングとデモテープ作ってたりしてたんだー」とか「チャックイズラエルズにジャズ理論を教わってたんだー」とか、いろいろと、サイモンのトリビアが知れて愉しい。そういえば去年あたりに出た伝記は、そのうち読む!
ひさしぶりにこの年表みていて、この時期に「10 years」なる曲が作られていることを知る。なんでも「オプラウィンフリーショー」とかいうテレビ番組(そうとうな人気番組らしい)のために作られた曲らしく、チャリティアルバム『Carnival -Rainforest Foundation Project』に収録されてるとか。いまはネットがあるのですぐチェックできる。



あれ? 『ユーアーザワン』のどの曲よりもいいんじゃ・・・? ポールはこういうのは余裕で書けちゃうんだよなあ・・・ベタだから自分のアルバムではやらないとか思ってるんだろうけど、理解はするけど、それでももったいないなあって思っちゃうよねえ。
さらにその15年後、25yearsとマイナーチェンジして、番組内でパフォーマンス。オプラさんのリアクションは若干うざいが、ポールは最高ですね。





ハデスタウン/アナイス・ミッチェル

拾い物CDから。
アナイス・ミッチェルきてますね。ちょっと前に破格で入手できたのは、おそらく盤面に粘着質のなにかがついていたからなのだけど、そいつを丁寧にこそぎ落として、気に入ってこのところ頻繁に聴いてていて、何でこんないいレコードもっと評判になってないんだ? とか思っていたら、このレコードから発展したミュージカルでトニー賞最多ノミネートとのことで、別方面から一段メジャーになりそうな気配です。ぼくはミュージカルには興味ないので、そっちの仕事にかかりきりで、ここのところレコード出せてないのが、いくらか残念な気もしなくもないですが。

Hadestown
Hadestown
posted with amazlet at 19.05.04
Anais Mitchell
Righteous Babe Records (UK) (2010-03-09)
売り上げランキング: 286,517

オルフェウス神話を大恐慌時代のアメリカに写したフォークオペラ。エウリュディケは毒蛇に噛まれて死ぬのではなくて、誘惑されてハデスタウンなる地下の街に行ってしまい、オルフェウスがそれを取り戻しに行くという筋書きらしい。ハデスタウンを歌ったwhy we build wallsがトランプウォールとの関連で、再注目を集めたということもあったらしいのだ。多数のゲストヴォーカルを配した盛大なコンセプトアルバムで、アナイスの個性、というのはもしかしたら他のソロ作よりも見えにくくなっているのかもしれないけれど、すごくいい。まずは弾き語り。



全身で歌っていやがる・・・ドラマのフルハウスとかにでてきそうなおしゃまな古典的ヤンキー(北部アメリカ人のこと、念のため)娘って感じなのだけど、オーラあるなあ。こういうコンセプトアルバム作るところからして、文学的な資質も感じさせる。それもそのはずというか父親は元作家で、アナイス・ニンから娘の名をとったという。
動画のペルセポネの歌はCDではアニ・ディフランコが歌っていて、アナイス自身はエウリュディケで、他にもハデスやヘルメスやらいるわけだけど、オルフェウスをやってるジャスティン・ヴァーノンの存在感がまた格別。彼の声が鳴ると温度と湿度がすっと下がる。自身のレコードでもたまにやっているが、オクターブ唱法とでもいえそうな裏声と地声で広い幅でハモる重ね録りやってて、オルフェウスのたぶん繊細なキャラにもぴったりだ。
これフォークなんだけど、半分くらいはジャズで、ジャズ期のポールサイモンや、ジョーヘンリーあたりも思い浮かぶ。土埃の舞うアメリカ南西部の邸宅を想起させるような「におい」の強いサウンドで、多数の声が入り混じる、田舎の宿屋とか乗合馬車みたいなにぎやかさが魅力的だ。アナイスのソングライティングはモダンであるというよりは、トラディショナル寄りなんだろうけど、それでいて無個性ではないくっきりしたフックも持っている。
演奏もスゴ腕ぞろいの感じだが、ぼくはなによりもジムブラックのドラムにやられた。聴いてると頭の中を快楽物質が小走りする。基本はフリージャズ界隈の人らしいが、ポップスのレコードでここまでドラムにはっとさせられたことって、いまだかつてない。風景を彩色するドラムとでもいうか。ドラムがぐいぐい引っ張るというタイプではないのだけど、ぴったり曲に合わせてきて出るとこは出るし引くとこは引く、硬質で多彩、音色の選択の精確さが細部まで行き届いている。ドラムというのは、ここまでのことができるのかと、衝撃だった。

これは貼っとこう。われらがケイトステイブルズとの共演。



この二人で、アマゾン限定とかのめんどくさい仕様で、一曲だしたりもしている。別々の好きなミュージシャン同士が、交流があったりすると、縁が繋がるみたいな気がして嬉しいよね。

英語以外の歌を聴く

もともと外国のポップスを聴くのって、日本語ではない違う言葉、異国の、意味の分からない言葉を聴くためってところもあったと思う。洋楽は歌詞が分からないからダメっていう意見もあるけれど、場合によっては逆に分からないほうが良いってこともある。純粋に英語という言語の響きの良さってのもあるだろうし、要するに意味が分からないのでひどい歌詞でもスルーできるところがよい。だれとは言わないが邦楽を聴いて曲はともかく歌詞がイヤだなって思うことはしばしばあるし、たとえば、ぼくはゾンビーズが大好きだが、それがダイレクトに意味の分かる言語として聞えてしまうと、果たしていまと同じくらい好きでいられるのか。ぼくには分からない。
試金石として、ゾンビーズの「I love You」の日本語カバーを聴こう。



「お前を好きだよ~、お前を好きなんだ~」。原曲の歌詞もどうかと思うが、いやもうこれはギャグでしょう。「おまえ」と「好き」を何回いうねんって話である。「おまえ」と「好き」で歌詞の50パーセントくらいいってるんじゃないか。
まあさすがにこれは好個の事例ではないが、意味が遠いほうがいいこともあるって話だ。

なので英語ポップスにもある程度慣れてくると、今度はもっと分からないほうがいいかも、という気分になるときがある。それに、語学習得の一助になってくれるやもしれぬという下心もある。ぼくはドイツ語覚えたいので、たとえばドイツ語なんかで、ポールサイモンみたいなシンガーソングライターはいないものか。
しかし、困ったことにヨーロッパのマイナー言語のミュージシャンたちは、ワールドクラスであればあるほどに英語を使う。世界市場を視野に、というやつだ。ビョークしかり、カーディガンズとかの一連の北欧勢しかり、ドイツやフランスといったマイナーとはいえない言語の国だってそうだ。フアナ・モリーナはスペイン語で歌うのに、Notwistはなぜドイツ語で歌わないのか。ドイツ語のワールドクラスっていうんならワーグナーやシューベルトを聴けというはなしだが、それはちょっと求めてるものと違う。そんなわけで、ドイツのローカルスター(?)Cluesoは二枚持ってる。




ドイツ語の摩擦と破裂の多い響きが面白い。意味はまったく分からないが、語数の多さにメッセージ性を予感させられる。旧東ドイツ出身のアイデンティティをテーマにしたシリアスな歌詞なんかも書いているようだ。サウンドも悪くはない。でももっとぐっとくるのはないものか。言語の壁があるので探そうにもなかなか見つからない。

SO SEHR DABEI
SO SEHR DABEI
posted with amazlet at 19.03.24
CLUESO
TEUNT (2014-07-14)
売り上げランキング: 1,074,794

という前置きで、最近見つけたPommeが気になるという話。ポメと読む。



フランス語のじゅるじゅるした響きと、シャンソンっぽい旋律と、時々鼻声(?)に裏返る歌唱がいかにも異国的でいい。シャンソン風フォークという感じ。最近こういう欧州トラッドの匂いが妙になつかしい。フランス語が分からないので、これが誰が作った曲なのかもわらない。ポメ自身も作っているようだが、これはポメ作なのかどうか。youtubeに動画をバンバンあげているので、いろいろ見てしまう。最近アルバムも出したみたいだが、フレンチポップ風の凡庸なアレンジがいまいちで、弾き語り動画見るほうがよほどよい。フランス音楽業界事情は知らないが、ルックスが良すぎるのでベタくて派手なプロデュースとかされそうではある。良きプロデューサーと巡りあって欲しいところ。
上の丸メガネをかけてビーチパラソルみたいな柄のシャツを着た動画でさえすでに可愛いが、髪を上げて白い羽毛みたいなジャケットを着てばっちりライトを当てるとまた見違える。女優並みというか、このまんまティファニーで朝食のホリーゴライトリーとかできそうである。


記事検索
最新記事
月別アーカイブ
最新コメント
カテゴリ別アーカイブ
  • ライブドアブログ